六曜という暦注以外にも、日本の社会慣習として、葬儀を避ける傾向にある時期があります。それが、多くの人々が故郷に帰り、家族と過ごす「年末年始」と「お盆」です。この時期に葬儀を執り行うことには、いくつかの現実的な困難が伴います。まず、年末年始、特に元日から三が日にかけては、ほとんどの火葬場が完全に休業となります。そのため、この期間に亡くなられた場合、ご遺体は数日間にわたって安置施設などで待機することになり、葬儀は早くても一月四日以降となります。また、葬儀社自体も、年末年始はスタッフを減らした縮小体制で運営していることが多く、対応できる葬儀の数に限りがある場合があります。次にお盆の時期ですが、こちらも同様の課題があります。火葬場は稼働していることが多いものの、菩提寺がある場合、住職はこの時期、檀家の家々を回ってお経をあげる「棚経」などで、一年で最も多忙を極めます。そのため、急な葬儀の依頼に対応してもらうのが非常に困難になるのです。さらに、ご遺族や親族、参列者の側にも大きな負担が生じます。多くの人が、帰省や旅行の計画をずいぶん前から立てています。その予定を急遽キャンセルし、混雑のピークにある交通機関を使って葬儀に駆けつけてもらうのは、大変な心労と経済的負担を強いることになります。生花店や仕出し料理店なども、市場が休みであったり、人員が不足していたりするため、通常通りの手配が難しい場合もあります。こうした様々な事情を総合的に考慮し、年末年始やお盆にご不幸があった場合は、あえて葬儀を少し先に延ばし、世間が落ち着いてから、ゆっくりと執り行うという選択をするご遺族も少なくありません。これもまた、関係者全員への思いやりから生まれる、一つの弔いの形と言えるでしょう。