夕方からのお通夜の儀式が無事に終わった後、ご遺族は参列者に対して「通夜振る舞い」と呼ばれる会食の席を設けます。これは、弔問に訪れてくれたことへの感謝を示すと共に、故人の思い出を語り合いながら、最後の夜を共に過ごすための大切な時間です。参列者として、この通夜振る舞いにはどのように臨むべきか、そのマナーを知っておくことは重要です。まず、ご遺族から「どうぞ、お食事の席へ」と案内されたら、特別な理由がない限りは、少しでも席に着くのが礼儀です。一口でも箸をつけることが、故人への供養になるとされています。ただし、長居は禁物です。ご遺族は疲労困憊の中、対応してくださっています。三十分から一時間程度を目安に、頃合いを見て、そっと席を立つのがスマートな大人の配慮です。お酒が振る舞われることもありますが、故人を偲ぶ席であることを忘れ、飲みすぎたり、大声で騒いだりすることは厳に慎むべきです。話題も、故人の思い出話が中心となります。楽しいエピソードで場が和むこともありますが、あくまで故人を偲ぶという趣旨を忘れず、節度ある会話を心がけましょう。席を立つ際には、近くにいるご遺族に「本日は、これで失礼いたします。どうぞご無理なさらないでください」と、静かに声をかけてから辞去します。喪主や他のご遺族が他の方と話している場合は、無理に挨拶をせず、黙礼して席を立つだけでも構いません。ご遺族側の準備としては、近年、斎場の別室で、寿司桶やオードブル、サンドイッチなどを立食形式で用意するのが一般的です。人数の変動に対応しやすく、参列者が気軽に参加しやすいというメリットがあります。この通夜振る舞いという慣習は、飲食を通じて、人々が悲しみを分かち合い、絆を再確認するための、日本ならではの温かい文化なのです。